NatureやScienceといった権威のある学術誌ではなく、より人に読んでもらえる学術誌を目指す研究者が増えている。それが、オープンアクセス学術誌だ。
ゼネラルヘルスケア社が提供する「Science Postprint」は、アジア初のオープンアクセス総合科学学術誌であり、プラットフォームとしても独自のシステムを備え持つ。Science Postprintにかける想いについて、竹澤社長にお話を伺うことが出来た。
どこに論文を載せるかではなくて、載った後にどうなっていくか
いま、学術誌のビジネスモデルが切り替わるタイミングだと思っています。NatureやScienceなどの有名な学術誌のビジネスモデルは150年前から変わっていません。オンライン化が進んでいるこの世の中で、論文の世界もオープンアクセス化が始まっているのです。
学術誌とは、研究者の執筆した論文を掲載する雑誌のことだ。Natureなどの学術誌は、投稿者が論文を掲載するための費用は基本的には無料で、高価な冊子を発売することで収益をあげている。
竹澤氏は、この従来の学術誌の仕組みを変える鍵となるのが、オープンアクセスだと話す。オープンアクセスにより、オンラインで誰でも無料で参照することが出来るようになった。この仕組みが従来のモデルと大きく異なるのが、投稿者に論文の掲載料がかかることだ。
投稿者は掲載料を支払う必要がありますが、誰もが無料で記事を閲覧することができるため、論文を参照される数が圧倒的に増加します。そして参照数の増加は、論文の引用回数の増加にも繋がります。論文は人の目に触れて、引用されて初めて価値が生まれるものです。そういった意味で、オープンアクセスは今後需要が増加していくと思います。
オープンアクセス誌は今では学術誌の20-30%を占めている。世界で一番論文を集めているのが、PLoSというオープンアクセス学術誌だ。
学術誌の影響力の基準として、インパクトファクターがある。インパクトファクターは「平均的な論文」の被引用回数を示すもので、論文数が多くなるとインパクトファクターは通常低下するが、PLoSでは参照数の多さから高いスコアを維持している。
論文を書いて、研究者は初めて成長できる
研究者というのは、論文を書き、掲載されることで初めて成長するものなのです。読まれなければ引用もされない訳で、目に触れる機会をどれだけ作れるかが大切だと思っています。
将来的にはPhDが無い人、例えば高校生が論文を出しても面白いですよね。Science Postprintを若手研究者の登竜門にしたいと思っています。
Science Postprintでは、投稿者が所属する国のGDPによって掲載料を変える料金体系を採用している。また学生は10%引きにするなど、論文投稿の金銭的なハードルを下げる仕組みが用意されている。
無論、どんな論文でも掲載されるわけではない。学術誌に掲載されるためには、査読に合格する必要がある。Science Postprintの場合470人を超える査読者がおり、これは国内でトップクラスの規模だ。
オープンアクセスと、掲載料の仕組み、この2点から若手の研究者を惹きつけているScience Postprint。更に、これまでの学術誌とは異なる価値観を提供することで、プラットフォームとしても研究者と市民のニーズに応えていきたいと考えている。
単なる学術出版だけでなく、共同研究や産学連携の起点となる場へ
Science PostprintではAwardという企業が研究者を表彰する仕組みがあります。研究者と企業の両者がより密接な関係になることで、相乗効果に期待しているのです。
現在ではリバネスとCANの2社がAwardを出している。Awardは研究者にとっては自身のブランディングに繋がり、企業からのサポートを受けることが出来る。企業側からしても、優秀な研究者と繋がることに大きなメリットがあり、このプラットフォームを介しての産学連携が進んでいくと期待される。
また、研究者がブランディングされることで、総合学術誌の特徴を生かし、分野横断的な共同研究が加速していくことを目標にしている。
オープンサイエンスの実現へ
オープンサイエンスという考え方があります。サイエンスに興味がある市民に、もっと積極的に参加して欲しいのです。Science Postprintを通じてサイエンスへの参加ハードルを下げ、市民と研究者のコミュニケーションを促進したいと思っています。
竹澤氏は、市民の科学への参加、つまりオープンサイエンスの実現の為には2つの方策が必要だと考える。1つが言語の壁を取り除くこと、もう1つは参加するきっかけ作りをすることだ。
言語の壁を無くすために、Science Postprintでは母国語でのアブストラクト(概説)の掲載を増やしている。また、査読の際に研究の評価を5段階で行うことで、より論文の価値を把握しやすくする工夫も行っている。
また、市民が参加する為の方策としてDonationという仕組みがある。これは、寄付型のクラウドファンディングに近い仕組みで、自らの興味がある研究・著者に1口$30から資金提供を行うことが出来る。
例えば、自らが悩まされている疾患に対しての新しい治療法を待つだけではなく、その研究者に対して金銭的に援助を行うことで、サイエンスに主体的に関わることが出来ます。研究者も、自らの研究が市民に受け入れられているという実感を味わうことが出来るのです。
情報流通を促進したい
Science Postprint は10月に公開され、現在の掲載論文数は16本。Accept rateは45%で、論文投稿はほとんど海外の研究者からだ。Science Postprintの今後の展望についてもお話を伺うことが出来た。
まずは、2年後に発表されるインパクトファクターを出来るだけ高めていきたいと思っています。論文数を増やしつつ、注目され、引用されやすくするために、独自の企画をこれからも続けていきたいと考えています。
医学・科学技術の発展を「情報」という力により促進させ、医療分野の発展に寄与していきたい、という理念を持つ竹澤氏。Science Postprintはまだまだ成長過程にあるが、この革新的なプラットフォームを通じて医療がどう発展していくのか、大きく注目していきたい。
via 【Science Postprint】
Author Profile

- ライターTwitter:@kazuki24_
- 慶應義塾大学医学部4年生。NPO法人ジャパンハートにて、クラウドファンディングプロジェクトを成功させ300万円を集めた実績を持つ。ソーシャルグッドを専門に、NPO向けのネットメディアであるテントセンでのライターを務める他、自身の学業である医学とITとの連携に広く興味を持つ。
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