心臓を管理・動作させる:心臓を覆うセンサーカバー

 

人の心臓はいつか止まる。これは今まで当たり前のように享受されてきた事実だ。しかし今や、その現実さえも変えてしまうような技術が出現する時代になった。今回紹介する技術は心臓をすっぽり覆うセンサーカバーで、各種状況の測定はもちろんのこと、外部から心臓を動かすことも可能にするものである。

 

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ビデオ

 

こちらのビデオを見て欲しい。まるで本物の心臓のように脈打っているのが見て取れるだろう。金色に光って見えるのが薄く表面に張り巡らされたセンサ及びトランジスタである。

 

 

 

従来までの問題点

 

私達一人ひとりの「心」が異なるように、私達人間の「心臓」もまたひとりひとり異なっている。しかしながら、現時点の医療において、心臓への埋め込み機器(ペースメーカーや除細動器など)は基本的に単一の形状しか持たない。

 

患者にとっては生死に関わる重要なデバイスなのにも関わらず、こうした画一的な形状が問題でうまく適合できない例も少なくない。今回の研究はそうした現状を救うためのものである。

 

 

心臓を覆うシリコン製のセンサーカバー

 

イリノイ大学のJohn博士率いるチームは、3Dプリンターを使って、スキャンした医療画像から「うさぎの心臓」を正確に再構築した。次に彼らは、プリントアウトした収縮自在の基盤をシリコン組織に埋め込み、先ほど作った心臓をぴったり正確に覆った。センサはpHや温度を各位置に置いて計測することが可能で、LEDによってマッピングが、金の電極によって心臓を刺激することが可能である。結果として、心臓にぴったり合うように作られたこのカバーは、各位置にセンサの位置を保ったまま、心臓を動きを害さない程度に伸縮することができるようになっている。

 

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綺麗に配列されたセンサは2000個ものナノ電解質膜トランジスタを搭載しており、電気回路自体が伸縮可能であらゆる形状に張り付けることができる。この研究成果はイリノイ大学とノースウェスタン大学によるもので、単一シリコンから生成されたこの基盤は柔軟性に優れ、曲げることも折ることも可能となっている。今回の心臓カバー技術の立役者だ。

 

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また今回の回路には数多くのデバイスが搭載されていて、pH測定器から、酸素検出器、歪計、電極、温度計などが完璧に動くように配置されている。

 

理論的には、この技術によって様々な心臓の状況を計測できる他、心臓自体をコントロールすることも可能である。例えば、不整脈の際など、ペースメーカーの役割を果たすことができるというわけだ。

 

 

今後の課題や展望

現時点では、再現したうさぎの心臓において成功した段階にすぎない。今後の課題としては、生きた動物においての実験及び、人への臨床試験を行う必要があり、また、定期的なエネルギーの供給、ワイヤレスでのデータのやりとりの手法を確立しなくてはならない、とRoger博士は説明する。

 

 

筆者の考察

 

今回の研究における重要な部分を抽出すると「電極やセンサーを張り巡らせた極薄のシリコンのカバーで何かを覆うことで、覆った物体の各種状況の測定、制御ができる」ということである。これは今後多くの分野での応用が期待される。

 

Popular Scienceでも言及されていたが、この技術自体は神経科学の分野にも応用可能である。脳をすっぽり覆うようなシリコンカバーを同じ要領で作ってやれば、先ほどと同様様々な脳の状態をリアルタイムに観測することが可能になるからだ。もしかしたら電極を利用して脳に逆に刺激を与えることも可能になるかもしれない。そうなれば本当にマトリックスや攻殻機動隊の世界が実現するだろう。

 

これからはこうした応用性のある技術がますます重要になってくると考えられるが、それらはおそらく今回のように

  • 「小さく」
  • 「環境適応能力が高く(曲げられたり、折ったりでき)」
  • 「多様な機能を搭載」

したものであると筆者は考えている。

 

 

参考URL:

 

Author Profile

中込 翔
中込 翔Twitter:@gomessdegomess
ゴメスこと中込翔。慶應理工システムデザイン工学科卒業。脳血管のシミュレーションの研究を行った。現在はインドのシリコンバレー:バンガロールにてソフトウェアエンジニア。ヒューストン大学の博士課程に合格、9月進学予定。ブレイン・マシン・インターフェイスにおける研究を行う予定・
個人ブログも展開中。