シカゴ大学の研究チームは、世界最速のスーパーコンピュータの1つであるBeagleを用いて、240人分の全ゲノム解析をわずか2日で完成させた。従来の遺伝子解析では分析できなかった情報を多く含む全ゲノムには、医療的に大きな価値が見出されている。
全ゲノム解析とエクソン解析
2003年に終了したヒトゲノム計画により、ヒトの遺伝子配列は全て解読された。当時、15年かけて1人のゲノムを解読するのが精一杯だったが、シークエンス技術の革新により全ゲノム解析にかかるコストと時間は減少している。とはいえ、1人分のゲノムに含まれる30億塩基対の遺伝子情報を解析するには、依然として数ヶ月はかかる。
そのため、疾患に関する遺伝子解析は、タンパク質をコードするエクソンのみに注目してきた。エクソンは全ゲノムの2%以下の領域を占めるのみだが、疾患を引き起こす遺伝子変異の85%がこの領域に存在していると推定されている。
今回のスーパーコンピュータ「Beagle」を用いた解析は、タンパク質をコードしていない領域に注目し、残りの15%の遺伝性疾患に関しての研究を進める為に行われる。
スーパーコンピュータのバイオメディカルへの活用
BeagleはArgonne National LaboratoryにあるCray XE6型のスーパーコンピュータであり、計算、シミュレーション、生物医学研究のデータ解析に使用されている。Beagleは同時に複数のゲノム解析を可能にし、解析の時間を早め、かつその正確性を高めることで、1人あたりの解析のコストを下げることが出来る。全ゲノム解析のコストを1,000米ドルまで下げることが目標だ。
全ゲノム解析は、疾患の原因となる遺伝因子の解析や、診断基準の正確性向上に多大な役割を担うが、莫大な量のデータを扱う必要性があり、解析の技術力がボトルネックとなっていた。
Beagleの活用によって、今まで主に研究に使われてきた全ゲノム解析が患者の治療に役立てられる道も見えてきた。エクソン領域外の解析データが集まることで、疾患の新たな原因遺伝子を見いだせる可能性が高まったのだ。また、家族性の遺伝性疾患について、一度にその遺伝子を持つと想定される家族全員のゲノムの解析を行うことで、より正確な診断、治療、そして予防に繋がると考えられる。
新薬の開発など、バイオメディカルの分野にスーパーコンピュータを導入する事例は増加している。膨大な情報を扱う必要があるこの分野において、スーパーコンピュータの活用がブレークスルーとなることに大きく期待したい。
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- ライターTwitter:@kazuki24_
- 慶應義塾大学医学部4年生。NPO法人ジャパンハートにて、クラウドファンディングプロジェクトを成功させ300万円を集めた実績を持つ。ソーシャルグッドを専門に、NPO向けのネットメディアであるテントセンでのライターを務める他、自身の学業である医学とITとの連携に広く興味を持つ。
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