ジーンクエストCEO高橋氏が描く、ゲノム解析サービスへの想いとその未来とは



日本初の個人向け大規模遺伝子解析サービスを提供している「ジーンクエスト」。唾液からDNAを抽出することで、がんや高血圧など病気発症のリスクや、近視や薄毛などの体質に関する様々な遺伝子情報など、約200項目について調べることが出来る。(ジーンクエストの概説は、以前執筆した記事を参照して欲しい。)
サービス価格は2月28日までは期間限定で39,840円(それ以降は49,800円)。
 
ジーンクエストは、東京大学大学院の博士課程に在籍しているCEOの高橋祥子氏を中心に東京大学出身メンバーから構成される。2013年の6月に起業して、2014年の1月にサービスをローンチするという速度感溢れるバイオベンチャーであり、1年間でユーザー数1万人を目標に掲げる。CEOの高橋氏に立ち上げの動機や、今後の展望についてお話を伺った。

研究の目的は、人の役に立つこと

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東京大学大学院の博士課程に在籍している高橋氏は、生活習慣病の予防メカニズムについて研究してきた。遺伝子レベルで網羅的に解析することで、病気になってから治すのではなく、なる前に予防する仕組みを作りたいと考えてきたそうだ。ずっと研究職でいるつもりが、国内の遺伝子解析の実情を知るうちにもっと現状を変えなくてはいけない、と心を決めた。

「研究の目的って人の役に立つことなんです。研究者が作り上げた理論を元に企業が実践していくのですが、研究者の元々の想いがねじ曲がっているケースがしばしば見られます。
 
この注目されつつある分野で、最初にいいものを作れるかどうかで、消費者からの今後の信頼が変わってくると思うのです。望んでいたのとは違う使い方をされることで、ゲノムの情報の活用に規制がかかることは避けなければいけないと思ったんです。」

ジーンクエストの強みとして、DNAチップを用いて遺伝子を網羅的に解析出来ることが挙げられる。ゲノム配列には個人差があり、その違いによって例えば病気になりやすかったり、体質に違いが出てきたりするが、まだどう表現型に影響するのかわかってないデータも多い。

「サービスを展開してデータを集めれば集めるほど、新しい発見に繋がります。弊社は集めたデータを十分に活かして、新しい価値を皆様に提供できるのです。」


日本初の個人向けゲノム解析サービス「ジーンクエスト」

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「日本にある遺伝子解析サービスの中では、最も多くの項目を一度に、かつ高い信頼性の元で調べることが出来ます。」

ジーンクエストではDNAチップを用いて約30万箇所の遺伝子の差を大規模に調べ、病気・形質に関係する約5000種類の遺伝子を調べることで、200種類の項目それぞれの病気リスク、体質などの情報を得ることが出来る。
 
結果の基準となるデータは、基本的には学術論文から収集している。ゲノム配列中のこの塩基が変異することで、どういう疾患のリスクが上昇するのか、常に新しい研究成果が論文となって発表されている。そのデータを元に、ジーンクエストはデータ解釈のための独自のデータベースを作成した。また、集められたデータを分析することでその精度を更に高めていくことが出来るのだ。

「海外で人気の遺伝子解析サービスとして、23andMeが挙げられます。調べられる項目の数は、弊社と同じくらいですが、弊社は日本人の遺伝情報に特化した解析を行うことが出来ます。」

23andMeは欧米人のデータベースを元に解析を行っているが、人種によってデータの差が大きい。例えば糖尿病に関係するとある遺伝子は、欧米人では発症率に大きく影響するが、日本人ではあまり関係ない、ということがあるそうだ。ジーンクエストのデータベースは東アジア人の文献を用いているために、より日本人に正確な解析を行うことが出来る。
 
ところで、その23andMeは米国のFDAにより現在販売停止になっているが、それは彼らの遺伝子解析サービスが医療行為なのではないか、ということと、データの信頼性が問題になったケースなのではないか、と語る。

「遺伝子の変異の中に、1つの塩基が異なるだけで100%発症する、単一遺伝子疾患というのがあります。その遺伝子の変異を見つけることは、すなわち遺伝病の診断につながってしまうのです。23andMeは単一遺伝子疾患までも扱っていたために、医療行為とみなされたのだと思います。弊社ではこれは扱いません。」


誠意を見せていきたいんです

データの信頼性については、DNAチップを用いたデータの書き出しと、データの解釈法、この2つを高く保つことが必要だと話す。DNAチップはエラー率が3%あると言われているが、これは現段階で最高の技術を用いている。データの解釈に関しては、データベースを作り上げるのに必要な論文を全て読み込むことで、信頼性を担保しているのだ。

「今後、弊社の集めたデータの分析や研究が進むことで遺伝子からわかることはどんどん変化していく可能性があります。その度に、お客様の解釈データをアップデートしてお知らせしたいと考えています。
 
誠意を見せていくことが、こういう新しい分野では必要だと思うのです。」


全てのものがテーラーメード化していく社会へ

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「今までは自分の遺伝子を知るという選択肢がありませんでした。自分のことを知るか知らないか、選ぶ権利は誰にでも当然あると思うのです。」

これから遺伝子解析のためのコストは更に下がり、新しい企業も参入することで自分のDNA配列を知る人は増えていく可能性がある。
しかし、その配列の意味を正確に分析出来る企業は多くないのではないか。データベースを持っている強みを活かして、今後様々な企業と連携をし、彼らにデータを提供できるプラットフォームにもなっていきたい、という展望を語る。

「これからは全てのものがテーラーメード化していくと思います。全員が同じものを選ぶのではなくて、個人個人にあったものを受け取ることが出来る時代になっていくのではないでしょうか。」

遺伝子解析サービスは、このテーラーメード化する社会を切り開く鍵となるように思う。この新しく、注目された分野がどう発展していくのか、どう消費者の信頼を勝ち得ていくのか、ジーンクエストの挑戦にこれからも注目してきたい。


via 【ジーンクエスト

Author Profile

松村 一希
松村 一希ライターTwitter:@kazuki24_
慶應義塾大学医学部4年生。NPO法人ジャパンハートにて、クラウドファンディングプロジェクトを成功させ300万円を集めた実績を持つ。ソーシャルグッドを専門に、NPO向けのネットメディアであるテントセンでのライターを務める他、自身の学業である医学とITとの連携に広く興味を持つ。