Googleが公式ブログ上でスマートコンタクトレンズのプロトタイプを公開した。このコンタクトレンズ
は涙から血糖値を測定するというものであり、これまでの血液採取による血糖値測定という常識を覆した。超小型無線チップとソフトコンタクトレンズ材料、そしてその2つの層の間に埋め込まれた小型グルコースセンサーから成るこのスマートコンタクトレンズは、涙に含まれるグルコースを測定しその結果をワイヤレスに送信することができるというものだ。
Googleの発表では涙液からグルコースを測定するセンサー技術についてほとんど触れていない。そこで今回は既存の研究内容などからGoogleのスマートコンタクトレンズの仕組みについて考察する。
体外液で血糖値が測定できるのか。米国パデュー大学の研究
米国パデュー大学では2012年の時点ですでに、「涙液や唾液といった血液以外の体液から血糖値を測定する」という研究が行われている。同大学の研究によると、グルコースが過酸化水素に酸化されるシグナルを白金の電極で検知することにより、涙液中に含まれるグルコース濃度の測定が可能となったとのことだ。同大学は涙液以外の体外液である唾液や尿中のグルコース濃度を検出することにも成功しており、低コストでの製造が可能なバイオセンサーのプロトタイプ作成にも取りかかっている。
しかしパデュー大学の当時の研究だけでは実は涙液から血糖値が測定できるとは言えない。涙液中のグルコース濃度の測定は可能だが、血糖値(血液中のグルコース濃度)と涙液中のグルコース濃度の相関関係が解明されていないと血糖値の測定ができるとはいえない。GoogleはすでにFDAとの協議を進めているという点からみると、この相関関係が解明されている可能性が高い。知人の研修医に話を聴いたところ、「体外液中のグルコース濃度と血糖値の相関関係はもちろんあるが、しかし体外液グルコース濃度から正確な血液中のグルコース濃度を計算できるというのは考えにくい。正確な数値は個人差がでてくるのではないか」とのことだ。
仮にGoogleのスマートコンタクトレンズによって算出できる血糖値が詳細な数値でなく、概数であったとしても血糖値測定の患者負担が軽減される意義は大きいという。現在主に一型糖尿病の患者やインスリン治療をおこなっている患者を中心に自己血糖測定を指示しているが、本来は第二型糖尿病患者も血糖値を観察できるのが理想とのことだ。つまり治療のうえでは自己血糖値測定が有用であっても、自己血糖値測定の患者負担が大きいことから測定するよう指示されなかったり、測定回数を一日一回にするなどの場合も多いそうだ。スマートコンタクトレンズがあれば、多くの糖尿病患者の「秒単位での血糖値の推移」をみれるようになり、治療に役立てることができるだろう。
体外液から血中物質を測定できるようになることの可能性
パデュー大学の「物質が酸化されるシグナルを検知することで、体外液中に含まれる物質を測定する」技術は、酵素を入れ替えるだけで糖尿病以外の疾患の検査などにも応用できる。例えばこの酵素をグルタミン酸酵素に置き換えれば、グルタミン酸系神経伝達物質を測定できるのでアルツハイマーやパーキンソン病の検査にも応用できる。(注1)そしてエタノール酵素に置き換えればアルコールレベルの測定にも応用できる。体外液から血中物質を推定できるという技術はこのように多様性、即時性、汎用性があり、可能性に満ちあふれているのだ。今後涙液だけではなく様々な体外液での応用や、様々な疾患に対する治療に応用されることに期待している。
注1:アルツハイマー型認知症の病因の一つとして、グルタミン酸神経系の機能異常があげられる。
参考:パデュー大学、Google公式ブログ、Redox Reactions
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- Twitter:@miyakomx
- 慶應義塾大学看護医療学部卒業。在学中に海外のヘルステック企業やデジタルヘルス企業に関して取り上げる、HealthTechNewsを立ち上げる。その後米系ベンチャーキャピタル500 Startupsの日本ファンドを経て、現在はCoral Capitalで投資担当を務める。
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