切らずにガンを治療する。陽子線治療という選択肢



ガンの治療方法には、手術等の外科療法、抗がん剤による化学療法、放射線療法があります。各治療方法にはそれぞれ特徴があり、がんの種類や状態によって使い分けられたり併用されたりしています。
 
近年がんに対する治療方法の進歩は著しく、新たな選択肢として「陽子線治療」があります。痛みがなく副作用も少ない、切開しなくて良いので体力がない高齢者でも治療ができる、治療期間も短く外来で通院しながら治療を受けることも可能などのメリットがあることから、最先端のガン治療として注目されています。
 

切らずにガンを治療するという選択肢

我が国におけるがんによる死者数は戦後増え続け、現在では全死因の1/3を占めるに至り、生活習慣の欧米化なども伴い、今後もさらなる増加が予想されています。
陽子線治療はがん治療の三本柱(外科治療、化学療法、放射線治療)のうちの一つの放射線治療の一種で、従来からの外科治療に代わる切らずに治す治療方法として、体への負担が少なくQOLを維持しながら治療を受けることができます。

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ガン治療に利用される放射線は、光子線と粒子線の大きく2つに分けられます。以前より放射線治療に利用されてきたX線やガンマ線は、光子線と呼ばれる放射線です。陽子線は、水素原子から電子をはぎ取り、残った原子核を加速させた放射線で、粒子線と呼ばれる放射線の一種です。陽子線と他の放射線との大きな違いは、がん病巣を狙ってくり抜くように治療ができることです。
 

陽子線治療の特徴

X線などの放射線は、体の表面近くで一番強いエネルギーで当たり、体の奥へ向かうほど弱くなりながら、止まらずに突き抜けます。そのため、がん病巣だけでなく、体の表面の正常な組織や、がん病巣の奥にある正常な組織も傷つけてしまいます。一方、陽子線は「ブラッグピーク」というエネルギーのピークに、一定の深さで到達し、止まるという特徴があります。
 
陽子線治療では、専用の機器や器具を用いることにより、ブラッグピークの深さや、患者さんそれぞれのがん病巣の形に合わせて照射することができます。よって、陽子線は正常組織への放射線量を低減し、治療対象のがん細胞のみに線量を増加させることができる為、従来の放射線では照射が困難であった部位に対しても十分な線量を照射することが可能となり、副作用も少なくできます。
 
しかしながら、陽子線治療には問題点も有り、それが高額な治療費と、広大な敷地面積を必要とすることです。
陽子線を作りだすためには、陽子ライナック、シンクロトロン、回転ガントリーと、それらを結ぶビーム輸送ラインなどの施設が必要となります。特に、リング状の加速器であるシンクロトロンで、陽子を1秒間に地球を4周まわるくらいの速さまで加速させる必要があり、このシンクロトロンが巨大なために設置のために莫大な費用と広大な敷地を必要とするのです。
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また、本治療に要する費用は約2,88万円です。本治療は厚生労働省より先進医療として認可されたもので、費用は保険適応外になります。つまり、本治療にかかる費用は患者さんご自身の負担となります。
 
日本国内で8台が稼働しており(平成25年度現在)、関東では、筑波大学陽子線医学利用研究センターと国立がん研究センター東病院で陽子線治療が受けられます。現在建設中のものも含め、13施設のうち三菱電機が8施設を受注しシェアは62%を占めています。

Author Profile

松村 一希
松村 一希ライターTwitter:@kazuki24_
慶應義塾大学医学部4年生。NPO法人ジャパンハートにて、クラウドファンディングプロジェクトを成功させ300万円を集めた実績を持つ。ソーシャルグッドを専門に、NPO向けのネットメディアであるテントセンでのライターを務める他、自身の学業である医学とITとの連携に広く興味を持つ。