先日行われた、Infinity Ventures Summit(IVS) 2013 Fallのピッチコンテスト「Launch Pad」で2位を獲得したのが、鳥人間社のDNA増幅器である、”NinjaPCR”です。オープンソースハードウェアのDNA増幅器でこれまでの10分の1の価格を実現しています。PCRの低価格化が進むことで、自宅で遺伝子検査を行うことが出来る時代もそう遠くないかもしれません。
Infinity Ventures Summitとは、インターネット、モバイル、ソフトウエアなどIT業界の国内外の経営者・経営幹部を対象とした年2回の招待制のオフサイト・カンファレンスです。ここで行われるLaunch Padはスタートアップの登竜門とも言われるピッチイベントで、広く注目されています。
PCR法とは
PCR (Polymerase Chain Reaction)法とは、ヒトのゲノムのような非常に長大なDNA分子の中から、自分の望んだ特定のDNA断片だけを選択的に増幅させることができる手法のことで、遺伝子研究には欠かせません。PCR装置は、PCR法を用いて特定の遺伝子を増幅させる装置であり、このNinjaPCRは、Kickstarterで約1万2千ドルを獲得したオープンソースハードウェア「OpenPCR」をベースに改良を加えられたものです。
極めて微量のゲノムやRNAから目的のDNAを選択的に増幅できることから、DNA型鑑定や診断等にも応用されています。
PCR法は、DNAが温度変化によって変性することを活用しています。
ヒトのゲノムを構成する2本鎖DNAは、高温になると変性し1本鎖DNAに分かれます。調べたい特定遺伝子と相補的で、短いDNA切片(プライマー)を予め試料溶液に加えておくことで、ほどけた1本鎖DNAにプライマーが結合します。結合したプライマーを起点に、DNAポリメラーゼという酵素がDNAを合成することで、特定遺伝子と全く同じDNAのコピーが作られるのです。
1サイクルでDNAは2倍に増幅し、PCR処理をn回のサイクルを行うと、1つの2本鎖DNAから目的部分を2n倍に増幅します。
PCRだけでは、遺伝子の検査などを行うことは出来ません。PCRで増幅した DNAは、電気泳動などを行うことで分離し、染色することで紫外線照射して可視化することができます。
あくまでPCRは、必要な遺伝子だけを取り出し大量に増幅させるという手法のことを指し、遺伝子検査などの前段階として必要なプロセスです。
NinjaPCRの特徴
通常のPCR装置は40万円から100万円と高価な製品であるため、研究教育機関などに導入が限られているのが現状です。しかし、NinjaPCRはオープンソースの設計図をベースとしている、Makerムーブメントで話題のArduinoを用いるなどすることで、価格は9万8000円と、これまでの10分の1の価格を実現しました。
低価格化することによって、小学校などの教育機関でも遺伝子について実験を行うことが可能になり、将来的には自宅で遺伝子検査を行うことも可能になるかもしれません。例えば、自分のアルコールの耐性を調べることや、食品の遺伝子組み換えの有無などを簡単に調べることが出来るようになります。(ただし、専用のプライマーやDNAポリメラーゼはその都度用途に合わせて購入する必要が出てきます。)
2014年には海外展開を進めていくそうですが、このようなバイオベンチャーがIVSのような場で注目されていくのは、今後の大きなブームへの火付けになるかもしれません。
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- ライターTwitter:@kazuki24_
- 慶應義塾大学医学部4年生。NPO法人ジャパンハートにて、クラウドファンディングプロジェクトを成功させ300万円を集めた実績を持つ。ソーシャルグッドを専門に、NPO向けのネットメディアであるテントセンでのライターを務める他、自身の学業である医学とITとの連携に広く興味を持つ。
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