手術支援ロボット「ダヴィンチ」による最先端医療現場



手術支援ロボット「da Vinci(ダヴィンチ)」を知っているだろうか?
「da Vinci Surgical System」は、米国Intuitive Surgical社が開発したマスタースレイブ型内視鏡下手術用の医療用ロボットだ。医師が直接患者に触れず、患部の3D画像を見ながら遠隔操作でアームを動かすという、ハイテク技術を駆使した画期的な手術を行うことが出来る。

da Vinciの特徴

da Vinciは内視鏡手術をサポートするロボットだ。患者の負担が少ない低侵襲な手術法として有名な内視鏡手術は、手術創が従来の開腹・開胸手術等に比べ小さく、術後の入院期間を短縮することができ、近年多くの手術で普及している。しかし、開腹手術と異なり身体にあける穴が小さいことで、視野が狭く、器具の操作が難しいため習得に時間が掛かるという欠点がある。
 
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da Vinci手術は、内視鏡カメラとアームを患者に挿入し、術者が3Dモニターを見ながら遠隔操作で装置を動かすと、その手の動きがコンピュータを通してロボットに忠実に伝わり、手術器具が連動して手術を行う。その技術力によって本能的にアームを動かすことが可能で、習得までの期間は内視鏡に比べて遥かに短く、しかも従来不可能とされていた動きを行うことが出来るため、医師にとって”優しい”手術を行うことが出来るのだ。

da Vinciのハイテク技術

da Vinciは大きく分けて3つの機械で構成されています。
 
①Patient Cart
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医師の手の動きを正確かつ繊細に再現して、手術を行うのがPatient Cartだ。Patient Cartの鉗子には人間のように関節があり、内視鏡手術では不可能だった回転、上下左右運動を行うことが出来、人間の手よりも自在な動きが可能だ。鉗子には用途によってさまざまな形があり、組織をつまんだり、切ったり、針を持って縫合など、術者のマスターコントローラの動きに連動して、指先のような細かい動きまで行うことが出来る。
 
②Surgeon Console

医師がPatient Cartの鉗子を操作する機械がSurgeon Consoleだ。最大15倍まで拡大された高解像度3次元立体画像を見ながら、両手でda Vinciを操作する。3次元化された画像により従来の内視鏡手術と違い、奥行きを読み取って鉗子を動かすことができるようになり、より正確かつ安全に手術を行うことが可能になった。
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このサージョンコンソールのコントローラーを介した操作においては手ブレは除去され、しかも操作速度もコントロールすることが出来る。狭い空間での作業や血管の縫合や切除などの細かい作業を強いられるとき、動かした手の幅を縮小して伝えるもので、たとえば3:1に設定すると、手を3cm動かすと鉗子は1cm動く仕組みだ。
 
③Vision Cart

da Vinciを操作している医師以外のスタッフは、Vision Cartのモニタを見ながら手術をサポートを行う。患者さんの全身管理は麻酔科医が担当し、鉗子の状態などの状況は他のスタッフが把握してタッチパネルに実際に書き込むなどして術者に伝達する。

 

ハイテク技術の結晶であるda Vinciを用いることは、医師にとって大きなメリットがある一方で、開腹手術に比べて傷口が小さいため、手術中の出血量が少ない、手術後の疼痛が軽減できる、合併症リスクの大幅な回避ができるといったメリットがあり、患者の早期の社会復帰を促進することが出来る。

da Vinciの現状

20世紀末にda Vinci第一世代が完成し、アメリカで2000年に胆嚢摘出手術に行われた。その後10年余りの間に飛躍的に導入が進み、現在はアメリカ国内で約1,500台が稼働している。ヨーロッパでも22カ国で約380台の導入が進み、世界では32カ国でダヴィンチ手術が施行され、臨床使用の累計はすでに78万例を超えている。
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東京医科大学ホームページより引用】

 
アメリカでは、今やda Vinci手術は、開放手術、鏡視下手術と並ぶ術式として、広く一般的な手術として人々に受け入れられており、泌尿器科を始め、婦人科、呼吸器外科、消化器外科、耳鼻科など、適応可能領域も増え、ダヴィンチ手術の可能性はさらに広がっている。
日本国内においてda Vinciが最初に導入されたのは2002年。現在では39台が導入され、アジアで最も多くのダヴィンチを所有する国だ。現在、主に東京医科大学と藤田保健衛生大学においてダヴィンチの導入・活用が進んでいる。

コスト面の問題

2012年の4月より、日本においてはda Vinciによる前立腺摘出術が健康保険の適用となったた。逆に言うと、他の手術においてはまだ保険適応されておらず、自由診療となり全額自己負担となっているのが現状だ。これでは、一部の裕福な方しか手術を受けられず十分な件数を手術することも出来ないので、病院側はなかなか減価償却することが難しくなってしまう。da Vinciは1台約3億円、維持費に年間2500万円がかかると言われている中、導入を渋る病院が多いのが現状だ。
 
ただ、前立腺手術のように保険適応されると、先進的な医療であるにも関わらず、医療費の負担は従来の手術とあまり変わらない。さらに、高額療養費制度を利用することでより負担を少なくすることが可能だ。


例)da Vinciによる前立腺全摘出術 10日の場合
医療費:約150万円
 
健康保険を使用される場合
70歳未満の方 約45万円(3割負担)
70歳以上の方 44,400円(所得により異なる場合があります。)
 
高額療養費制度※を利用される場合(一般所得の場合)
70歳未満の方 約95,000円
70歳以上の方 44,400円


  
いかがだろうか?医師の技術をロボットが補い、より患者にとって優しい手術が世界では進められている。
メーカーの努力によってよりコストが下げられることが望まれつつ、ダヴィンチの保険適応が進むことで日本でもこの高度な医療が一般的に受けられる日が望まれる。



Author Profile

松村 一希
松村 一希ライターTwitter:@kazuki24_
慶應義塾大学医学部4年生。NPO法人ジャパンハートにて、クラウドファンディングプロジェクトを成功させ300万円を集めた実績を持つ。ソーシャルグッドを専門に、NPO向けのネットメディアであるテントセンでのライターを務める他、自身の学業である医学とITとの連携に広く興味を持つ。