Rock Healthという米国のヘルスケアテクノロジー分野に特化したアクセラレーターをご存知だろうか。Rock Healthは最先端医療の権威である、メーヨークリニックからの出資やサポートを受けることができるなど、サポートが一流なことで知られる。今回は数あるRock Healthのポートフォリオ企業の中から「次世代の検査診断サービス」を取り扱う企業を3つご紹介する。
アルツハイマー診断を変える、予測診断システムのNeuroTrack
アルツハイマー病は進行する「認知障害」を主な症状とする病気だ。認知障害とは記憶障害・見当識障害・学習障害・注意障害といった生活に直接支障を来す障害で、重症度が増すと摂食や着替え、意思疎通などもできなくなる。アルツハイマー病を大きく分類するとアルツハイマー型認知症と家族性アルツハイマー病の二種類が有り、前者は日本国内の認知症の中でも特に症例数が多く、近年研究が活発に行われている分野だ。
アルツハイマー型認知症の年間発症率は、90歳まで指数関数的に増加(加齢とともに増加)し、年間発症率は、0.6%(65 – 69歳)、1.0%(70 – 74歳)、2.0%(75 – 79歳)、3.3%(80 – 84歳)、8.4%(85歳 -)となっていまる(ボストン東部の調査)。家族性アルツハイマー病は4つの原因遺伝子によるもので、これらの遺伝子は常染色体優性遺伝であり、「片方の親が家族性アルツハイマー病であれば子は性別に関係なく2分の1の確率で罹患する。
アルツハイマー病において早期発見は非常に重要で、治療が認知障害などの症状をいくらか緩和・遅滞させることで患者の能力や機能をより長く保つ役に立つ場合がある。「早期発見でできた時間で、患者さんご自身とそのご家族が病気を理解し、付き合っていく準備をする」ことは非常に重要だ。現在この早期発見のためにAlzheimer’s Association(NPO)では「アルツハイマー病が疑われる10の兆候」というチェック項目を設け、少しでも当てはまる方へ早期受診を呼びかけている。
この早期発見の動きよりも、さらに早く発見できるよう技術開発を行っているのがRockHealth発のNeuroTrack。NeuroTrackは症状が現れるよりも数年早く「予測診断」する技術を、製薬企業とパートナーシップを組んで開発している。この予測診断技術は一般集団に対するスクリーニングを目指している。スクリーニング検査とは「今後ある特定の疾患への罹患リスクがある人を、集団の中から全てピックアップすること」を目指した検査。擬陽性も含まれるが、「少しでも罹患リスクがある人を如何に見過ごすこと無く発見するか」という考えの下、様々な疾患における第一段階の検査方法として用いられている。
NeuroTrackは現在高齢者の多くがアルツハイマーと診断されていること、そして患者さんやそのご家族はもちろん、国家財政を圧迫していることを問題視している。NeuroTrackの検査システムはアメリカ国立衛生研究所の協力のもと研究・開発が行われ、所用時間20分程度のコンピュータベースの視覚的認知テストとしてスクリーニング検査が可能になった。より安価に・より実践的(言語依存ではなく最低限のトレーニングで導入可能)というような医療機関側の負担軽減は、検査が普及する上で重要な要素だ。
以前ご紹介したDNA検査に限らず、今後様々な分野において簡単に罹患リスクが予測可能だろう。これまでのような「病気になったら治療」から「事前に自分の体を理解する」という予防医学への流れが確実に出来ていると言える。
スマホに装着する顕微鏡で小児の遠隔医療を可能にCellscope
cellscopeは小児の外耳道・鼓膜部位の診察が可能なデジタル顕微鏡で、スマートフォンに装着することによりデータ化が簡単にできる。このデジタル顕微鏡からwebプラットフォーム上の様々な症例情報へ接続し、迅速かつ的確な診断を自宅にいながら行うことが可能だ。医療機関と在宅間の継続的治療のツールとして・医学生の教育ツールとして・家庭での健康維持ツールとして、また老人ホーム・学校・保育園などの福祉施設等での活用が見込まれている。
カリフォルニア大学バークレー校のモバイル顕微鏡の研究室から生まれたこのスタートアップは、発展途上国の遠隔地医療の研究の一貫でCellscopeを開発したそうだ。2011年5月にRock Healthから2万ドルを調達した約1年後の2012年6月には、Khosla Venturesからシードラウンドで100万ドルを調達している。米国の医療機器審査基準であるFDAもクラス1として免除されるが、Massive HealthのAndrew Rosenthalによると、スマートフォンユーザーは80%でそのうち健康系ツールを用いているのは約3分の1というのが現状とのこと。そういった意味でCellscopeが一般ユーザー向き在宅医療ツールとして浸透するには少し時間がかかるのではないだろうか。
スタンフォード発の感染症診断プラットフォームのFluid
Fluidは、Diagnostics(2011年にOpko Healthによって買収された)の中心開発者であり起業家のAdam Siegelと、スタンフォードの教授で投資家でもあるMicahSiegelによって2013年創設されたスタートアップだ。インフルエンザを初めとする感染症に特化した診断プラットフォームサービスを開発している。
ユーザーはスマートフォンで感染症に関するビックデータから、カスタマイズされた情報を収集したり、インフルエンザなどの感染症の自己診断を行うことが出来る。スマートフォンによる診断システムの開発費として、ビルアンドメリンダゲイツ財団から140万ドルを獲得している。感染症の診断という緊急性・流動性の高い分野におけるスマートフォンやwebの活用は必須であり筆者が非常に期待のサービスだ。(詳細はまだ公開されておらず、どのような形式になるかは不明。)
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- Twitter:@miyakomx
- 慶應義塾大学看護医療学部卒業。在学中に海外のヘルステック企業やデジタルヘルス企業に関して取り上げる、HealthTechNewsを立ち上げる。その後米系ベンチャーキャピタル500 Startupsの日本ファンドを経て、現在はCoral Capitalで投資担当を務める。
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