3Dプリンターによる臓器印刷の未来


3Dプリンターで臓器を印刷する、という未来

医療の発展によって人類の平均寿命は年々伸びている中、臓器不足という大きな問題が顕在化しています。
日本においては、臓器移植法が平成22年に改正されたことによって、より臓器の移植が行われやすくなったとはいえ、まだまだ移植を待ってる人は多いです。
例えば腎臓にフォーカスしてみると、日本臓器移植ネットワークに登録している移植希望患者数は、全国で1万 2546人である中、毎年行われた腎移植は 200 例に満ちません。移植を受けられる患者は2%にもならず、移植までの平均待機年数は約 16 年であり、非常に厳しい状況にあります。
 
この臓器不足を解決する手段の1つとして、3Dプリンターを用いて患者に適した臓器を印刷する、という方法が開発されているのです。
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3Dプリンターとは、通常の紙に平面的に印刷するプリンターに対して、コンピュータ上で作った3Dデータを設計図として断面形状を積層していくことで立体物を作成出来ます。主に、プラスチックや樹脂、金属などを”インク”とすることで、製造業界などでテスト品やユニークな部品を作成するために活用されている技術です。
この3Dプリンターのインクに、人間の生きた細胞などを用いることで、既に移植可能な骨や軟骨、皮膚や血管などを印刷することに成功しています。


3Dプリンターを用いた臓器移植の現在

3Dプリンターを用いた印刷には4段階のレベルが存在します。
 
 ●ヒトの皮膚のように基本的に1種類の細胞から構成されている、平らな構造物
 ●血管のような2種類の細胞から成り立つチューブ像の構造物
 ●胃や膀胱のように中が空洞の構造物
 ●腎臓や心臓、肝臓などの複雑な臓器
 
現在では、上記の最初の3段階までは人体にも移植可能なものが作り出されており、まだ複雑な臓器においては小さいモデルを作成できるのにとどまっています。
最終段階の複雑な臓器をフルサイズで印刷するためには、臓器を栄養する大小の血管を植え付ける技術の開発が必要となり、未だに臓器を維持するのに十分な血管のネットワークを構築することに成功していません。現在では臨床的には3Dプリンターは従来の方法では作成するのが難しい、特異的な形状(軟骨や頭蓋骨、補聴器の型など)をしているものを印刷するのに活用されています。

また、Wake Forest InstituteでのBody on chipと呼ばれるプロジェクトでは、印刷した小さい心臓、腎臓、そして肝臓を血管モデルと共につなぎ合わせることによって、ヒトの体に非常に近いモデルを創りだすことで、薬剤の効能や疾患の病態の研究をよりヒトに近い環境下で行うことを可能にし、新しい薬剤の開発に一役かっています。


3Dプリンターによる臓器印刷の方法

臓器を印刷する際には、まずその臓器の3Dデータが必要となります。まず、CTスキャンやX線を活用して層ごとにコンピュータを使った形態計測と画像解析を行い、患者自身の臓器の3次元イメージを再構成します。
そのイメージを360度回転させて、臓器の容積特性を詳細に分析し情報を取得することで、印刷できるデジタル情報にします。そして臓器を断層的に見ていきそれぞれの層を分析し、患者に合った臓器をデザインすることができるのです。
 

Wake Forest Instituteでは、こうして作成されたデータを元に臓器を型どった人工的な”足場”を作成し、そこにヒトの生きている細胞を植えけることによって臓器を作り出しています。この方法で、1999年に膀胱が印刷され実際に患者に移植されており、現在では型と細胞の植え付けを同時に行うことができるプリンターの開発が進められています。
 
一方、サンフランシスコにある医療スタートアップであるOrganovo社では、同じ機能を持つ細胞同士が集まる習性を用いて人工的な足場を用いずに印刷する方法を開発しています。必要な細胞を小さなブロック状に形成し、ブロックを層状に組み合わせることによって正確な印刷を可能にしようとしているのです。足場を用いないため、その生体材料が将来的に人体に悪影響を及ぼす可能性をなくす事が可能になります。また、3Dプリンターの材料は、患者の脂肪か骨髄から集められた幹細胞を用いているため、拒絶反応が起きる心配はないのです。


3Dプリンターの未来

現在では、移植の為のフルサイズの臓器を印刷することは技術的に乗り越えなければならないハードルは高い。しかし、既に臨床においては3Dプリンターによる生体構造物の印刷によって、救われている命もあるのが事実です。
 
バイオプリンティングと呼ばれるこの分野の技術者は、より簡便にこの技術を用いることができるようになることで、医療に革命を起こすことを目的にしています。3Dプリントの特徴であるスピード、効率性とカスタマイズを最大限に生かし、バイオプリンティングの分野はいずれ要望に合わせた臓器を印刷する事ができるようになるでしょう。移植を待っているたくさんの患者の人生を変えることができる日もそう遠くないかもしれません。
 
photo via 【livescience
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photo via 【Cornell University


Author Profile

松村 一希
松村 一希ライターTwitter:@kazuki24_
慶應義塾大学医学部4年生。NPO法人ジャパンハートにて、クラウドファンディングプロジェクトを成功させ300万円を集めた実績を持つ。ソーシャルグッドを専門に、NPO向けのネットメディアであるテントセンでのライターを務める他、自身の学業である医学とITとの連携に広く興味を持つ。