DNAや遺伝子といったものは非常に専門性が強いものでしたが、近年民間企業による遺伝子検査が盛んに行われるようなり、特に2012年12月に遺伝子検査サービスの最大手23andMeが価格を大幅に下げたことで多くのひとの手に届きやすくなりました。今後DNA上の遺伝子情報によって予防医学が革新的に変化すると言われています。そこで今回は自宅でできるオンライン遺伝子検査サービスの比較を、DNA・遺伝子について説明しながらご紹介します。
1、DNAと遺伝子について
ヒトの遺伝情報はDNA上のヌクレオチドの塩基配列がタンパク質の発現を支配することによって決定されます。ヒトのゲノムの中には30億塩基対が存在し、同じ遺伝子情報を持つ人間が現れる確率は4兆7000億人に1人、理論値では1000兆分の1とも言われています。1953年にDNAが発見され、50年後の2003年にヒトゲノム計画という人間の遺伝子情報の全解析する研究が完了して以来、急速に遺伝情報と病気の関係性に関する研究が盛んになりました。そして丁度遺伝子の解析から10年後にあたる2013年にはDNA検査は単に血縁関係や犯罪鑑定のためのものではなく、DNA上の遺伝子情報と病気の関連性を分析し将来的に起こる危険因子を明らかにするためにに行われるようにもなりました。
病気は遺伝因子と環境因子からなると言われていて、先天的な病気を除くと「元々体質的に弱いところ」に「悪影響を及ぼす生活習慣や外部因子」がかかる事によって病気になりやすくなります。つまり遺伝子検査で病気を予防するということは、遺伝子情報から自らの弱い部分を事前に把握しておくことで生活習慣などの環境因子に特に気をつけることです。これまで一般的に言われてるようなことに気を付けることしかできなかったのが、遺伝子情報によって個人それぞれが気をつけるべきことが明確になったのです。医療分野でも個別性は非常に重視されることですので、予防医学は益々注目されるようになりました。特に糖尿病、高血圧症、心筋梗塞、ガン、アルツハイマー、アレルギー、喘息、先天異常、精神障害といった分野において遺伝子検査のによる予防医学は注目されています。
2、遺伝子検査サービスの比較と分析
個人遺伝子検査サービスの代表なものとして、23andMeの他にPathway Genomics, Navigenics, deCODEmeがありましたが後者の2つは既にサービス提供を終了しています。日本のサービスですとGeneLifeなどがあります。以前から特定の疾患に関わる遺伝子検査は病院で行われていましたが(病院で行われる遺伝子検査は特定の疾患に関連する遺伝子のみを検査するもの。)2006年代に下記のようなオンラインで注文・webで結果を見れるサービスがリリースしたのを皮切りに、自宅で出来る検査サービスが増えました。
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23andMe |
GeneLife |
Navigenics |
Pathway Genomics |
価格 |
99ドルと送料10ドル(アメリカ国内) |
29800円 |
1000ドル(2010年時) |
検査内容によって異なるが、一括版で450ドル(2010年) |
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公式サイトや輸入代理店業者(この場合追加10000円以上かかる) |
公式サイトを始めyahooメディカルやDHCのサイトで購入できる。店舗での取り扱いもあり、東急ハンズやプラザなどで販売している。 |
公式サイト |
公式サイト |
検査項目 |
200以上の遺伝子について分析し、数十もの病気に対する情報や民人種別情報などを提供。 |
68の遺伝子を分析し、十数の体質の特徴、いくつかの病気に対する情報、美容や栄養バランスの指導といったことを提供。 |
25の病気に対する罹患リスク、薬剤への副作用リスク、肥満リスク等の情報を提供。 |
他のサービスのように遺伝子データを一括して解析するのではなく、ガン遺伝子検査・心臓検査・精神衛生検査といった分野ごとに検査キットが異なり、それぞれ非常に詳細な情報を提供。 |
検査結果 |
オンラインで確認できる。 |
オンラインで確認できる。 |
オンラインで確認できる。 |
オンラインで確認できる。 |
日本対応 |
未対応。代理店業者は多数あり。 |
日本のサービスで、東アジア人以外は対応できない。 |
対応している。税関申告書類あり。 |
対応している。 |
ユーザー数 |
35万人 |
不明 |
不明 |
不明 |
創設年 |
2006年 |
2004年会社設立、キットの販売は2009年から開始。 |
2006年 |
2008年 |
創設者 |
Anne Wojcicki(googleのSergey Brinの妻) |
Davit Baran |
Matthew Garrett |
James Plante |
本拠地 |
カリフォルニア |
木更津 |
カリフォルニア |
カリフォルニア |
資金調達 |
google,google ventures,johnson&johnsonから現在のラウンドDまでに総額161ドル |
出資を受けているかは不明だが資本金は1億円 |
google,sequoia capitalから現在のラウンドCまでに総額4300万ドル |
不明 |
その他 |
遺伝子情報から親戚だと思われるユーザーと繋がることが出来るサービスもあり、SNS要素もある。 |
肥満や老化、骨粗しょう症対策に特化した特定の遺伝子の検査キットも5800円で販売押している。 |
2012年Life Technologiesによって買収される。 |
アジア最大の民間医療機関と提携している。 |
豊富な検査項目・低コストという点で圧倒的人気を誇る23andMeですが、リリース当時の検査価格は1000ドルでした。その後繰り返し行われた多額の資金調達により現在の99ドルまで下げることが可能になったのです。遺伝子検査にかかる費用自体はそこまで下がっていないにも関わらず大幅な値下げを行ったのには理由があります。一般的なサービスや商品の値下げの目的は主にユーザー数の増加を見込んでのものですが、遺伝子検査サービスにおいての値下げは単なるユーザー獲得にとどまりません。遺伝子検査サービスはDNA解析をするだけではく、遺伝子と体質や病気の関係を分析します。分析のためには検証するためのデータが必要になります。値下げに伴い当然ユーザー数は増加し、更にそれにより遺伝子情報のデータベースが充実します。このデータは将来的に遺伝子と病気の関係を分析するのに役立てることができ、非常に価値あるものになるのです。つまりユーザー数は単純に人気を示すだけではなく、データベースの充実度・分析の精度を意味するとも言えるでしょう。ユーザー数の多い人気のサービスほど精度が高いとも言えます。
またこれらのサービスには大企業が様々な形で関わっていて、23andMeとNavigenicsはGoogleから出資を受け、日本のGeneLifeはyahooメディカルでの販売やDHCとの事業提携をしています。このように今後増々市場が拡大することが期待されます。
3、遺伝子検査を受ける際に気をつけるべきこと
遺伝子検査が身近になったことにより、これまでの検査ではわからなかった自分自身のことが事前にわかるようになります。生命を扱う医療には、常に倫理的な問題や課題がつきものですが、遺伝子という生まれ持った情報には多くの倫理問題が生じます。この課題に対しては自国ごとの基準ではなく、世界的な共通見解が必要となるでしょう。
同様に個人情報の取り扱いも危ぶまれます。これまで遺伝子解析するというのは特殊な場合のみでしたが、遺伝子検査が一般に普及した近い将来は必ず訪れるでしょう。遺伝子情報が万が一流出した際にこれまでに前例のないような悪用が行われるでしょう。遺伝子情報が全てを決定するとは言い切れませんが、「さまざまなことが起こりうる確率」があきらかになるのです。自分で把握し注意する分には有効な情報ですが、他人に知られてしまうのは恐ろしいことですから注意してサービスを選ぶ必要が有ります。
またこのような遺伝子検査サービスは国の許可(米国だとFDA)が必要となっています。利用するサービスを決める際にはきちんと許可が下りているか注意しましょう。
また海外の遺伝子検査サービスの場合、欧米人のデータが中心であることが多く、日本人のデータに適した分析を行えるサービスか見極める必要が有ります。
予防医学への応用
今後遺伝子情報が簡単に把握できるにより、個人情報問題・倫理的問題についての議論は必須となるでしょう。しかその一方で予防医学の可能性は世界的にその必要性が認められてはじめています。予防医学の拡充は国の医療費削減にも大いに貢献します。
また個人個人の体質が遺伝子単位で見れるようになるので、近年重要視されている「パーソナライズされた医療」を提供しやすくなります。一人一人にあった医療を行うことで安心かつ効果的な結果が得やすくなります。予防医学や個別医療の手段の一つとして公式に認められれば、遺伝子検査の保険適用の範囲が拡大する可能性もあり、非常に楽しみです。
Author Profile

- Twitter:@miyakomx
- 慶應義塾大学看護医療学部卒業。在学中に海外のヘルステック企業やデジタルヘルス企業に関して取り上げる、HealthTechNewsを立ち上げる。その後米系ベンチャーキャピタル500 Startupsの日本ファンドを経て、現在はCoral Capitalで投資担当を務める。
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